INTERVIEW
YOTSU-UCHI FANTASY Ⅲ
開催記念
安部コウセイ×山内総一郎
対談!
11年ぶりの開催となるSPARTA LOCALSとフジファブリック合同企画による「YOTSU-UCHI FANTSY Ⅲ」。デビュー当初からどちらのバンドも見守ってきた立場からすると、この対バンをまた観る日が来るとは思っていなかっただけに、非常に感慨深いものがある。確か前回はこちらの予想をはるかに上回るガチで挑み合う対バンライヴだったと記憶しているが、同世代でありながらも纏う空気がそれぞれ対照的なバンドであることが浮き彫りになったイベントでもあった。かたや人見知りオーラむきだし全開のスパルタに対して人懐っこい空気を醸し出すフジファブ。そんな二つのバンドの特徴がぶつかり合ったイベントがこうして帰ってきたものの、あれから月日は流れ、どちらのバンドも解散やメンバーとの別れを経験し、あの頃にはなかった空気や色を持ったバンドになっている。
そんな彼らが今、お互いどんな勝負を挑もうとしているのか--。安部コウセイと山内総一郎、それぞれのフロントマンを迎え、このイベントにかける意気込みはもちろん、互いのバンドに対する憧憬とコンプレックス、そして強烈なライバル心について語ってもらった。
思いっきしライバルやったもん。志村くんも俺に対してすごいバチバチしてて(安部)
スパルタと対バンするからには違うことしなきゃ絶対に勝てないと思ってた(山内)
――じゃあ始めますけど、かしこまらずいつも通りでいいですか?
安部「いつも通りでいい?ってなんかカッコいいな(笑)」
山内「よくコウセイくんの家でいつも取材するんでしょ?」
――そう。いつも美味しいコーヒー淹れてくれるの。
安部「ソウくんとは付き合い長いの?」
――ちゃんと話をするようになったのは志村がいなくなってから。
安部「オレも同じ。ソウくんとは志村くんがいなくなってから深い話をするようになった」
山内「たしかほぼ初めて弾き語りで出た新宿ロフトのライヴとか、あの頃からじゃないかな。富士Q(註:フジフジ富士Q。2010年7月10日に富士急ハイランドコニファーフォレストで行われたライヴ)の時もそこまで長い時間会話する感じでもなかったし」
安部「あの日はそれどころじゃなかったよね」
――ソウくんってそもそも友達は多いほう?
山内「微妙ですね(笑)。フェスとかで会うような知り合いは多いけど……最近はひとりぼっちが多いかな」
安部「俺も友達、いないねえ」
――寂しい共通項(笑)。で、11年前の対バンだけど、覚えてることってありますか?
安部「全然……覚えてないなぁ」
――個人的には、コウセイが取材かなんかでフジと対バンした時のことに触れてて、「スパルタは本番前にステージ裏でフーフー言ってるのに、フジは〈じゃ、行きましょうか〉みたいなノリで、その違いがバンドの人気の差だ」って言ってて。
安部「そんなこと言ってた? でもそれ、あながち間違いではないね。やっぱりウチらは内側にどんどん向かっていくってタイプだったもんね。今も俺とソウくんのこの感じを見てもらったらわかる通り、実際のところはわからんけど、ソウくんって外に対しては明るいやん。いい印象を与える」
山内「それはね……嫌われたくないだけ(笑)」
安部「ははは! それは俺も同じなんだけど、いかんせん外面が悪くて(笑)」
――つまりお互い同世代バンドなんだけど、持ってる空気が対照的で、そのコントラストがくっきり出た対バンだったと記憶してますが。
山内「結構ガチやったと思う」
――そうそう。今どきのインスタに自撮りをアップするような対バンじゃなくて、お互いライバル心メラメラで。
安部「だってフジファブリックは思いっきしライバルやったもん。志村くんも俺に対してすごいバチバチしてる感じがあって」
山内「コウセイくんに対しては自分の意見を言う人やったね、志村くんは。とにかくスパルタをすごい意識してて。だからバンドとしても、対バンするからにはスパルタと違うことしなきゃ絶対に勝てないっていうのがあって」
安部「お互いそうだったんだ」
山内「フジファブリックからすると、スパルタみたいにメンバーがひとつの塊になるのっては出来ないと思ったから。そこは勝てない、みたいな」
安部「俺からすると、フジみたいに垢抜けてて外向きなバンドに対するコンプレックスがあって。今でもあるけどさ」
山内「そうなん?」
安部「別にお洒落なことやってるわけじゃないけど、人物自体が垢抜けてる感じがするんだよ。でもスパルタはみんなジメジメしてる」
山内「そうかなぁ?」
安部「やっぱさ、俺らの故郷って盆地だからじゃん?」
――それは関係ない(笑)。
山内「そういえば志村くんがよく言ってた。故郷が一緒っていうだけで――」
――そこに彼は強いコンプレックスを持ってて。
山内「そう。僕らはいろんな場所から集まってきたバンドだったから。でもスパルタはみんな故郷が同じ仲間っていうムードがステージに出てた気がする」
――だから当時の対バンはフジ、スパルタの順番だったけど、やっぱり印象に残ってるのはスパルタのライヴで。
山内「うん、そうだったと思う」
安部「まぁ戦い方の違いだと思うけどね」
このバンドを続けるためにはどうしたらいいかっていうところでの結論が、自分で歌うことだったから(山内)
いざ自分のことだとものすごく気負うし、頑張らなきゃいけない。でもそれってあんまり良くないなって(安部)
――で、どっちのバンドにも共通してるのは、11年前とは今のバンドの在り方がまるで違うってことで。
山内「そうですね」
――かたやヴォーカルがいなくなってギタリストが歌ってるし、かたや解散してまた復活したっていう。
安部「それで言うとさ、ソウくんすげえ勇気あるなって思ったよ。フジファブリックっていう看板を降ろさず、しかも志村くんの跡を継ぐってことは、どうやっても比較されるわけで。俺がその立場に立たされた時、同じことができるかっていうと、絶対ムリ。怖いよ」
山内「怖いって思うのは、コウセイくんはもともとヴォーカリストだから歌う人の大変さを知ってるからだと思う。僕はもともとギタリストで、このバンドを続けるためにはどうしたらいいかっていうところでの結論が、自分で歌うことだったから」
――って簡単に言うけど、初めてソウくんがセンターで歌ってるのを観た時「あ、こいつ腹を括ったんだな」って思ったのを覚えてる。
安部「たぶん明確に変わったんだろうね、ソウくんの中で何かが。俺、日比谷野音で弾き語り観た時、ハッキリそう思った。この人、完全にヴォーカリストになったなって」
山内「それでも思ってた以上の大変さがあるんだなって思いましたよ、ヴォーカルって」
――そもそもソウくんに対する昔のイメージって、バンドの中でもちょっとチャラけてて、女にモテるギタリストっていうか。
安部「女にモテていい気になってるギタリストね(笑)」
山内「なってない!(笑)。だって僕、自分の存在はバンドの中のカウンターだと思ってたから。フジファブリックに入った一番最初から」
安部「そんなふうには全然見えなかったよ」
山内「もし普通におとなしくギター弾いてたら、このバンドは生き残れないと思ってたから。志村くんのヴォーカルだったりダイちゃんのキーボードに対してギターで暴れていかないと、普通のバンドになっちゃう気がして」
――変なバンドであろうとしたよね。
山内「うん。そうじゃないとダメだって。それこそスパルタみたいなバンドに勝てないと思ってたから。それで志村くんのヴォーカルに対してどう暴れるか?みたいなのはいつも思ってた」
安部「そのヴォーカルとの関係性って俺と真くん(伊東)に似てるわ」
山内「あ、そうかもしんない。だから志村くんもスパルタを強烈に意識してたんだと思う。歌とギター2本によるアンサンブルの強さというか、そこが他と一線を画すものだったし。あと、コウセイくんって昔から頑固なイメージがあったけど、今のスパルタローカルズって頑固さより柔軟さがあるような気がして」
安部「そうだね」
山内「前だけを見て進む強さというか。解散する前がどうったのかはわからないけど、なんとなく昔のスパルタとは違うと思う」
――今はライヴ観てても楽しいっていうか。前はヘンな気負いがあったけど。
安部「そうなの。俺、またスパルタやるってことになった時、全然気負ってなかったんだよね。いわゆる他人事みたいな感覚があって」
山内「へー、他人事」
安部「いざ自分のことだと思うとさ、ものすごく気負うしものすごく頑張らなきゃいけないし、それでいて結果も出さなきゃいけないって思うじゃない? でもそれってあんまり良くないと思ったんだよね」
――それはスパルタを解散して思ったこと?
安部「そう。だからHINTOもそうかもしれないけど、自分のバンドをどこか他人事みたいな感じでやった方がいいんだよ。モチベーションのアップダウンも少ないし、自分を客観的にも見れる。最近はそう思ってるけどね」
――昔のスパルタは逆だよね。「とにかく爪跡残さないと!」みたいな。
安部「あとは『スパルタ懐かしいねって言われたままで終われるかよ!』みたいな感じとか。でも今の俺、そこはどうでもよくて。懐かしいって言われてもいいやって思ってる。それも音楽のいいところだし、別にどういう感想を持ってもらってもいい。それで俺自身の気持ちが良ければ」
――そういう考え方が出来なかったら、スパルタなんて復活させないと思うし。
安部「やっぱりスパルタの中期から後期にかけては、どんどん邪念のようなものが渦巻いてきてて。数字を出さなきゃいけない、売れなきゃいけないとか。そういうのを上手く消化できなかったし、もっと言えばメンバーのせいにもしてたし。とにかく生産的な考え方ができなくて、とにかく根性論!みたいな。『お前もっと死ぬ気でやれよこの野郎!』みたいな」
山内「それも大事やけどね。でも……っていう」
安部「そればっかりじゃ駄目だし。死ぬ気でやれよって言ってることの裏づけみたいなものが必要だし。今ならそれもわかるんだけど」
――当時は本番前にフーフー言ってるバンドだったからね(笑)。
安部「まぁわからんよね。『ステージの上で死ぬ気あんのかよ!』みたいな、わけのわかんない感じだったから(笑)」
山内「それだけだとバンドが消耗しちゃうよね」
安部「そう。自分で自分を傷つけてるのと同じだから。で、離れてみてもう1回やってみたら、スパルタのいいところも悪いところも、駄目なままでいいところもわかって。それを今は楽しめてる」
俺、ソウくんが歌う『Fly』を聴きたい。しかもスパルタの演奏で(安部)
それは駄目だよ! だって『Fly』は……俺が聴きたいもん!(山内)
――つまり11年前とはまるで違うバンドであると。一方でフジも当時とは全然違うバンドに――。
安部「ほんとだよね」
山内「だから昔のフジはスパルタみたいにメンバーが塊になるバンドに対してのコンプレックスがあったけど、今のフジはちゃんと塊になってるような気がする」
――塊になってるね。
安部「ヤベェな、こりゃ手強いぞ(笑)。あのスキルがあって塊になってこられたら」
山内「なんかね、昔はサッカーで言うとフォワードがいてミッドフィルダーがいて……みたいな感じやったのに、最近は加藤さんもフォワードをやり始めて(笑)」
――フォワード3人体制(笑)。
安部「え、ビックリ! あんなに寡黙な男が?(笑)」
山内「そう。だから全員で前に出るバンドに……なったのかな」
安部「そうかそうか。それ、怖いな」
――それこそ昔のスパルタみたいな泥臭さもあるし。
山内「そこが一番大きな変化なのかもしれない」
安部「そっかー。やっぱ面白いね、フジファブリック」
山内「でも、さっきコウセイくんが言ってたような、バンドを俯瞰で見たり柔らかくバンドのことを考えたりするのも大事だけど、時には自分と思いっ切り向き合って曲を書かないといけなくて。コウセイくんもそうでしょ?」
安部「ほんとにそう」
山内「で、それが上手くいかん時って、やっぱり一番……しんどい」
安部「自分を削る時ね」
山内「そう、削る時。例えば歌詞とかって鉛筆で書くんじゃなくて指から血を出して書いてるような感覚になる時があって。で、『俺はこれが言いたいんだ!』っていうのを言葉にするんだけど、それがイマイチだった時はしんどい」
安部「すげーわかるよ。でもそれ、ヴォーカリストとしては健全だよ」
山内「そうだよね」
安部「ただ、ヴォーカリストってヤバいんだよ。身を削るって言ったけど、狂気みたいなところの領域にやっぱ触れるからね。しかもそこに触れないと作れないところもある」
山内「うんうんうん」
安部「近づき過ぎちゃうとヤバいんだけど、でもそこに行かないと駄目」
山内「駄目な時もあるね」
安部「それを上手くコントロールできればいいんだけど、なかなかね」
――実際にヤバいなって感じたことはあるの?
山内「ヤバいというか、そういう時は怖いなって思う。だって出てる音と言葉が違うから」
安部「わかるわかる」
――どういうこと?
山内「つまり音は『お前のそんなものはいらない』って言ってるわけですよ。でも身を削ってるとそっちばっかになって、音楽が聴こえなくなっちゃうというか。それが怖いなって」
安部「昔のスパルタはそういう状態が長く続いたの。俺、念みたいなのだけでやろうとしてたから(笑)」
――でも今そうならずに済んでるのは、HINTOのおかげ?
安部「完全にそうだよ。HINTOは始めた時からなるべく俯瞰で見る練習をしたし、でも俯瞰で見過ぎても面白くない、やっぱり身を削るような部分も大事だなって。つまりそこはバランスなんだってわかったところでの今のスパルタだから」
――だから今、この2つのバンドがガチで対バンするライヴってどんな感じなのか想像もつかなくて。
安部「もちろんガチですよ。フジファブリックのことはめちゃ尊敬してるし、ライバルだと思ってるから、そんな相手にヘラヘラは出来ないっすよ」
――とコウセイは言ってるけど、どう受けて立つ?
山内「どう?…………あの、フロントマンとして駄目かもしれないんですけど、僕は……出たとこ勝負かな」
安部「ははははははは!」
――せっかく最後に「ガチンコのプロレスみたいな対バンになりそう」って煽ろうとしたのに(笑)。
山内「プロレスにはならないねー(笑)」
安部「この対談の意図を見事にひっくり返した(笑)」
山内「でもそれぐらい嬉しいんですよ、またスパルタとやれることが何よりも。もちろんガチンコでやるつもりだけど、やっぱり当日スパルタの曲を聴けるのがすごい楽しみだったりするし」
――個人的にはセッションをやって欲しいんだけど。
山内「あ、やりたいとは言ってます」
――今ここで「やる」って断言して(笑)。
山内「あ、やりますやります(笑)」
安部「ただセッションしてもつまんなくない? なんなら俺が『虹』を歌うとか」
山内「あ、じゃあ俺はスパルタの曲歌いたい」
安部「だったらソウくんがスパルタに入ったらいいんじゃない? スパルタに入ってスパルタの曲を唄う。で、俺はフジファブリックに入ってフジファブリックの曲を歌う」
――ぜひ実現させて。
安部「俺、ソウくんが歌う『Fly』を聴きたい。しかもスパルタの演奏で」
――スパルタの名曲ですな。
山内「えー、それは駄目だよ!」
安部「なんで?」
山内「だって『Fly』は……俺が聴きたいもん!」
――はははは!
山内「じゃあ、お互い1曲カバーとかどう?」
安部「いいね、カバー」
――それもいいですね。
山内「どっちにしても、一回3人で話さないと決められないけど」
安部「やる時は教えて。フジファブリックがウチらの曲をカバーするならこっちもカバーしたいわ」
――その日にしか観れない対バンにしましょう。
安部「でも俺ら……フジファブリックの曲、カバーできっかな?(笑)」
山内「や、余裕でしょ!」
――あとは当日までのお楽しみってことで。
山内「でも『Fly』は……やっぱりスパルタで聴きたいなぁ」
安部「あはははは!」
インタビュー・テキスト:樋口靖幸(音楽と人)