フジファブリック 8th ALBUM「LIFE」SPECIAL SITE
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LINER NOTES text by 小野田雄

 2004年のデビューから今年で10周年。これまで歩んできた10年の道のりを振り返り、そして、新たな歩みをスタートさせるフジファブリック。その大きな節目となる8作目の新作『LIFE』は、その曲名が反転を意味する"Reverse"と再生を意味する"Rebirth"のダブルミーニングになっている「リバース」で幕開ける。この作品からは、10年の歳月のなかで、2009年に急逝したフロントマンの志村正彦と共に育んできたものを、新たな風景に向けて、つなぎ響かせていこうという、山内総一郎、金澤ダイスケ、加藤慎一の強い意志が感じられる。
「昨年から今年にかけて、EP「FAB STEP」や2枚のシングル「LIFE」と「ブルー╱WIRED」を制作しながら、デビュー10周年を控えて、過去の出来事を振り返りつつ、未来に向けて、希望や喜びを育て、つないでいくにはどうしたらいいかということを考えました。そして、その過程で「LIFE」というテーマが思い浮かんで、そこから先は溢れる思いが言葉となって、どんどん形になっていったんです」(山内総一郎)
 これまで、世のほとんどのバンドがそうであるように、曲先行で後から歌詞を付けるというプロセスで制作を行ってきた彼ら。しかし、山内の発言は、このアルバム制作時に、創作のプロセスを反転させるほど、彼が歌い、伝えたい“生の衝動”に強く突き動かされていたことを如実に物語っている。そして、通常であれば、メンバーがデモを持ち寄り、アルバム用の曲を選んだ後、録音へと進むレコーディングの進行も、今回は大きな変化を迎えることとなった。
「今回のアルバム制作が以前と大きく違ったのは、今までのように時間の制約を気にしながら、スタジオでアレンジの試行錯誤するんじゃなく、事前に、山内くんの家に集まって出来たことですね。その場は他のスタッフ不在で、メンバー3人だけ。しかも、晩ご飯の予約は僕が担当だったんですけど(笑)、夏休みに友達の家に集まるような感覚で、無駄話しながら、アイデアを共有しながら、楽な気持ちで曲に取り組めたのが良かったんですよね」(金澤ダイスケ)
「しかも、その段階で、歌詞がすでにあったので、歌詞に合ったアレンジのアイデアを膨らませやすかったということもあります。だから、以前の作品と比べて、歌詞と曲の一体感が高まっていると思いますし、その後のスタジオでは出したい音をどうやって出すかという作業に時間をかけて、録音も迷いなく、スピーディーでした」(加藤慎一)
 歌い、伝えたい思いがシンガーソングライター的な佇まいに昇華されたオーソドックスな歌モノを軸とする本作は、曲の特性に合わせて、BOBO(54-71)と玉田豊夢(100s、斉藤和義ほか)という2人のドラマーをフィーチャー。演奏力が如実に反映されるアナログ・レコーディングによる録音は、じっくり歌に向き合ったヴォーカル・ギターの山内以下、モダンなシンセサイザーではなく、オールドスクールなオルガンをメインでプレイする金澤、そして、歌に寄りそったベースを聴かせる加藤という3人がこの10年で積み重ねてきた経験の豊かさをリッチな音像で聴かせてくれる。
「このアルバムは、ヘヴィなバンドサウンドやフジファブリック流のダンスミュージックもあれば、ビューティフルハミングバードの光ちゃん(小池光子)にコーラスをお願いしたエキゾチックな、サイケデリックな曲があったり、今のフジファブリックが持っている音楽性の幅が表現されていますし、その一つ一つは今後につながっていくものだと思います。決して狙ってそうなったわけではなく、生命力が沸き上がってくるように、溢れるアイデアをそのまま素直に形にしていった結果なんですけど、内容的に散漫にならなかったのは、楽曲を一つにまとめあげる『LIFE』というテーマがあったからこそだと思いますね」(山内総一郎)
 そして、全15曲、60分を越える渾身の大作アルバムは、別れや旅立ちを意識させる「卒業」で美しく、切なく締めくくられる。そこでアルバムの余韻に浸るのもいいが、再び、1曲目の「リバース」をプレイすれば、この曲が「卒業」を逆回転させたサイケデリックなサウンドテクスチャーが下敷きになっていることに気づかされる。そうやってぐるぐると螺旋を描きながら、フジファブリックは10周年のその先へと進んでゆく。
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